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金沢地方裁判所輪島支部 平成4年(ワ)3号 判決

原告

甲田乙子

右訴訟代理人弁護士

奥村回

西村依子

宮西香

被告

株式会社乙田建設

右代表者代表取締役

乙田丙太

被告

乙田丙太

右被告ら訴訟代理人弁護士

田中幹則

智口成市

主文

被告らは、各自原告に対し、金八〇万円及びこれに対する平成四年一月一八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを六分し、その五を原告の、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは、各自原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成四年一月一八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二請求原因

一  被告株式会社乙田建設(以下「被告会社」という)は、土木建設工事請負、土木建設用機械・器具等の賃貸等を業とする会社であり、被告乙田は右会社の代表取締役である。

二  原告は、平成三年一月二〇日、被告乙田と面接の上、被告会社に入社した。

三  不法行為1

1  被告乙田は、妻と別居中であり、子供達もそれぞれ独立し、自宅で一人暮らしである。

2  原告の仕事は、被告会社の事務等ではなく、被告乙田の自宅における電話番及び社長のための炊事、社長宅の掃除等の家政婦的仕事である。

3  被告乙田は、平成三年一月末ころから「女房と別居中で、なにかと不自由だ。」「あんた親切だね。」「俺は何でこんなひどい目にあわんならんのかね。」等原告の同情を引こうとするような言葉をかけてくるようになり、更に、風呂場から「背中を流してくれ。」と言ったり、「ちょっとだけ。」と言いながら背後から手をかけてきたりするようになった。

原告は、原告のような女性にとって、被告会社での仕事はなかなか好条件であり、被告乙田がその勤務先の社長であるため、とげのたたないようにすり抜けていたが、被告乙田の原告に対する右のような行動は次第にエスカレートし、原告の耳やあごに口を近付けたり、胸に手をのばしたりするようになった。

更に、被告乙田は、同年三月中ころには、「片山津で遊んでくる分、あんたにあげた方がいい。」とか、「三万円あげるから、ねぇー。」と言ったりして、原告にお金を押しつけようとしたり、原告の下半身にまで手を触れようとし、ついに、同月二七日の午後二時ころ、被告乙田は原告に言い寄りはじめ、避けようとした原告を力づくで押さえ込み、原告がはいていたスラックスを下着もろとも引きおろし、姦淫しようとした。

4  右一連の行為は、被告乙田が被告会社の社長としての地位を利用して、原告に対し性的関係を迫ったもので、被告乙田個人の行為であるとともに、被告会社代表者として従業員に強要した行為であり、いわゆるセクシャルハラスメントに該当する。

四  不法行為2

1  被告乙田の原告に対する右三記載の行為は、三月二七日、原告が厳格に拒否の態度をとったためなくなった。

2  しかし、被告乙田は、原告が性的要求を拒否したため以後業務命令にかこつけるなどして様々な嫌がらせをして、原告が被告会社を辞めるように仕向けた。

例えば、それまで原告の仕事であった被告乙田の昼食の用意や、被告乙田のその他の各種の支払い等を、被告会社の事務員である丙井にやらせるようになった。また、ボーナスを支給しなかったり、昼食付きの条件であったのにそれをカットしようとしたり、特に用事もないのに日になんども電話をかけてきてはすぐ切る等の嫌がらせをしたり、原告の仕事は家政婦の仕事にもかかわらず作業日報を毎日つけさせることを命じたり、命じた仕事(草むしりなど)がきちんとできていないなどと難詰したり、原告が反論すると「誰に向かって言っている。」「給料、誰からもらっている」等と脅かす等の行動を繰り返した。

3  同年八月七日、被告乙田は、ほかに駐車スペースはいくらもあるのに、原告の車を駐車してある場所に、自分の車を駐車すると言って原告に車の移動を命ずる等の嫌がらせをし、原告が反論すると被告乙田は突然原告の左耳を殴打した。そのため、原告は頭痛等のため三日間の安静加療を要する傷害を負った。

4  右各種の嫌がらせや暴行も、被告乙田が被告会社の社長という地位を利用してなしたものである。

五  不法行為3

被告乙田は、前記四2記載のとおり、意のままにならない原告を追い出そうとして様々な嫌がらせ等を繰り返してきたが、ついに、同年九月一四日、給料の一・五月分の金額の入った封筒を持ってきて「もう仕事にでてこなくても良い」「新しい仕事を探しなさい」「鍵を置いていきなさい」等原告に申し向けて解雇する旨のごとき行動をとったため、原告は右金員の受領を拒否して辞める意思のないことを告げたが、同月一七日、被告乙田は原告に対し、「お金は振り込んだから鍵を置いていけ」云々と告げて、原告の出社を拒否した。

そして、被告会社は、九月一四日原告を解雇したが、右解雇は理由のないものである。

六  被告らの不法行為により被った原告の精神的苦痛を慰謝するには五〇〇万円の支払いが相当である。

七  被告らの責任

1  被告乙田は、民法七〇九条により原告の被った損害を賠償する責任がある。

2  被告乙田の前記行為には、会社の機関としての行為も含まれており、被告会社は民法四四条(商法による準用)により責任を負い、また被告乙田の使用者として民法七一五条による使用者責任を負う。

そして、被告会社は労働契約上の信義則の具体化として認められる配慮義務の一貫(ママ)として労働環境整備義務を負っており、被告会社は被告乙田の前記行為に対し何等の措置も取らず、民法四一五条による債務不履行責任を負う。

よって、原告は、被告らに対し、各自五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成四年一月一八日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三被告らの請求原因に対する認否及び主張

一  請求原因一は認める。

二  同二のうち、面接日は否認し、その余は認める。

三  同三1は認め、2ないし4は否認ないし争う。

原告は入社後の一月末ころから三月末ころまで、積雪のためとの理由により自らの意思により右乙田の自宅に延べ十数日も泊り被告乙田らと飲食歓談し、連泊も数回に及んでおり、しかも、原告は被告乙田とともにビール等を飲酒してなにかと原告に気を引こうとする言動をおこなってきたものであり、被告乙田はセクシャルハラスメントを行なったことはない。

四  同四1ないし4の事実は、同四2の、被告会社の事務員である酒井に支払いをさせたこと、ボーナスを支給しなかったことは認め、否認ないし争う。

五  同五のうち、被告会社は原告を平成三年九月一四日解雇したこと、給料の一・五月分を送金して支払ったことは認め、その余は否認ないし争う。

六  同六、七1、2は争う。

七  酒井に支払いをさせたのは原告が被告乙田の食事をつくる必要がなくなったこと、原告にまかせておくと自分のものか被告乙田のものか分からないような物品の購入をしたことから原告に物品の購入及び支払いをまかせないようにしたものである。ボーナスを支給しなかったのは原告が入社してまもないこと、原告の勤務ぶりがあまりに悪く、被告乙田に理由もなく反抗して仕事を適切に行わなかったためである。また、原告は被告乙田の娘に被告乙田がセクシャルハラスメントをしたと大声で怒鳴り、その場をはなれようとする被告乙田を追い掛け更に怒鳴り、産後の娘を気遣う被告乙田に対し更に誹ぼうしたため、被告乙田は原告を平手でたたくにいたった。その後も原告は被告乙田に反抗的な態度をとり、また、執ように被告乙田にいいがかり的質問を浴びせる等の行動をとり、原告の行動は尋常を逸したものであった。そのため、被告会社はやむをえず原告を解雇したものである。そして、原告は解雇を承諾している。

八  被告乙田の暴力は原告の行為に起因するものであり、違法性ないし責任が阻却されるべきものであり、被告乙田の殴打は慰謝料請求権を発生させるほどの傷害を原告に与えてはいない。

理由

第一  請求原因一(被告会社の業務及び被告乙田が代表者であること)、原告が被告会社に面接の上入社したこと、被告乙田が妻と別居中であり、子供達もそれぞれ独立し、自宅で一人暮らしであること、被告会社の事務員である丙井に被告乙田の各種の支払いをさせたこと、被告会社は原告にボーナスを支給しなかったこと、被告会社は原告を平成三年九月一四日解雇したこと、給料の一・五月分を送金して支払ったことは当事者間に争いがない。

第二  (証拠・人証略)の結果、調査嘱託の結果及び前記当事者間に争いのない事実によれば、以下の事実が認められる。

一  被告会社は、土木建設工事請負、土木建設機械器具等の賃貸等を業とする会社で、従業員数は一〇名前後の個人企業である。

二  被告乙田は、被告会社の代表取締役であり、妻とは別居中で、子供も独立しており、自宅に一人で住んでいる。

三  原告は、離婚し、子供が一人いる。

四  原告は平成三年一月二一日ころ被告会社に入社し、その仕事は主に代表者である被告乙田の自宅における電話番、掃除、洗濯及び被告乙田のための昼食、夕食の用意等の家政婦的仕事である。自宅での従業員は原告一名である。原告の勤務時間は午前八時半から午後五時までであり、給料は月一〇万円余りであった。

五  原告の雇用は、社会保険に入れる、車のガソリンは被告会社の費用で取引しているガソリンスタンドで入れる、給料は事務員なみ(ボーナスの支給も含まれると認められる)、食事は被告乙田と共にしてよいとの約束であった。なお、被告会社は原告が入社した平成三年一月分として一か月分の給料を支払い、原告の車の任意保険の保険料を負担している。

六  被告乙田は、平成三年一月末ころから三月にかけて、原告に「女房と別居中でなにかと不自由だ。」「俺はなんでこんなにひどい目にあわんならんのかね。」等の言葉をかけてくるようになり、「ちょっとだけ。」と言いながら手をだし、原告の体に触れることがあった。更に被告乙田は原告に口を近づけたり、原告の胸に触ろうとしたり、抱きついてくることもあったが、原告はそれらに抵抗していた。また、被告乙田は原告と共に夕食で飲酒した際、「片山津へ行って処理してこないかん。」等と発言したこともある。更に被告乙田は、風呂場から「背中を流してくれ。」と言ったり、原告に強く抱きついてくるようになり、「五〇〇〇円あげるからやらせてよ。」などと言っている。

七  原告は、被告乙田の自宅において、被告乙田と共に夕食し、ビールを飲んだり、どぎついセックスを(ママ)話をしたこともある。また、原告は片山津へ行くお金を私にくれれば、ずっと面倒をみますよ等と言ったこともある。

原告は被告乙田の自宅に雪のため十数回泊まったり(ただし被告乙田は柳田にある事務所に泊まった)、被告乙田のいない時に風呂を使ったことがある。

八  強姦未遂行為については、これを認めるには証拠が十分ではない。

原告は平成三年三月二七日午後二時ころ被告乙田がスラックスを下着もろとも引きずり下ろし、強姦しようとした旨主張し、原告本人の供述中にそれに沿う部分があり、(人証略)にも原告からその旨の相談を受けたとの証言部分がある。しかし、原告はその際パンテイストッキングをはいており(原告本人の供述)、パンテイストッキングを脱がせることは難しいこと、原告は同日夕方買い物にいき、翌日からも通常通り勤務を続けており、また、原告の当初からの相談役である今泉や原告の、ボーナスや昼食費の雇用条件もしくは八月七日の暴行に対する抗議のときにも強姦未遂行為の話はでておらず、原告において強く意識してはいなかったと考えられること、被告乙田は原告が自宅に宿泊するときは事務所に泊まっていたこと、その他原告の供述が全体的にオーバーであることを考えると、原告の前記供述について更に信憑性につき立証が必要であり、原告の供述から直ちに強姦未遂行為を認めることは難しく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。(証拠・人証略)中に、三月二七日の前と後に分けて、(証拠略)の食費の対比をなしているが、右の結果は直ちに前記結論を左右するものではない。

九  原告は、整理整頓が杜撰であり、常識はずれのところがある。

なお、三月ころまでは、原告の食事及び出納関係につき被告乙田から特に苦情はでていない。被告会社代表者兼被告乙田本人尋問の結果中に、原告が食事は上手ではない旨の供述があるが、三月までは被告乙田は原告の作る料理を食べており、右供述部分は採用できない。

一〇  被告乙田は原告に辞めてもらいたいと考えるようになった。そして、被告乙田は、四月ころから昼食を自宅でとらないようになり、更に、原告が被告乙田の自宅で支払っていた請求書を事務所に回すようになった。また、被告会社は原告に夏のボーナスを支給していない。

一一  そして、原告は六月一五日事務員の丙井より、(弁当代は出す趣旨で)弁当を持ってくるよう指示されたため、質問書(〈証拠略〉)をだし、昼食付きの条件であったことを主張し、被告乙田は「いままでの条件で勤めて下さい」との回答書(〈証拠略〉)をだしている。

一二  原告は当初から今泉と相談していたが、六月ころからは、文書で被告乙田に質問し、文書で残すようにしており、また、原告は四月ころから口答えするようになり、弁当の指示後は殆ど毎日被告乙田と言い争いをするようになった。

一三  被告乙田は原告に対し、平成三年七月三日から同月一三日まで作業日報(〈証拠略〉)をつけさせた。右には原告のなした作業を記載することになっているが、原告の被告乙田に対する質問、原告と被告乙田とのやり取りや口論等も記載されている。

一四  被告乙田は、自宅にいる原告に電話をかけてきたが原告は電話になかなか出なかったことがある。

また、原告はむしった草をドブに捨て、水が溢れたことがある。また、被告乙田は七月一〇日原告に芝刈りがきちんとできていないと注意したところ、原告は「後でどうこう言われた時のために昨日庭の写真を写しました。」「一週間も休んで出てきたら雨ばっかりだし、ほかにもする仕事があるし、出来るわけないでしょう。」などと反論し、それに対し被告乙田は、誰に向かって言っているとか、誰から給料をもらっているなどと言った。また、作業日報には、七月八日の箇所に、『(原告)「まあーその前にもずーっとしばらくの間丙井さんが自分の家で社長の弁当まで作って、二人で社長の自宅で落ち合って、奥の座敷で食べたりしてましたからね。」(社長)「誰に向ってそんな事を伝ってる、誰から給料もらっとる、なぐるぞ」と手を上げかけて見せた。』と記載されている(証拠略)。

一五  八月七日被告乙田が、原告に対し、被告乙田の自宅の車庫の前に駐車してあった原告の車を移動させるよう注意したところ、原告は被告乙田にこれもセクシャルハラスメントだといって抗議し、立ち去ろうとする被告乙田になおも抗議を続け、怒った被告乙田は原告の左耳付近を殴打した。

なお、原告は(証拠略)で診断書(病名殴打による頭痛の疑い、三日の安静加療を要する)を提出しているが、右診断書は、平成三年八月八日付井端内科医院の診断書であり、原告は八月七日宇出津総合病院で診察を受けており、打撲については愁訴によるものであり、軽症との判断であり(調査嘱託の結果)、前記診断書どおりの傷害を認めるには躊躇を覚える。

一六  原告は暴行後直ちに今泉に電話連絡し、今泉は暴行について、同日被告乙田に抗議した。

一七  原告は被告乙田と毎日のように言い争いをし、九月一一日には、社長さんは女ぐせが悪い、近所の人も皆言っている、金沢にも女がいる、あっちこっちにもいる、訴えるのなら訴えてください、受けてたちますよ、などと発言している。なお、原告は八月六日には原告代理人に相談している。

一八  被告会社は平成三年九月一四日付で原告を解雇した。右は、原告が職務上の指示命令に不当に反抗し事業場の秩序を乱したことを理由としている。

第三  被告会社及び被告乙田の責任につき、以下、判断する。

一  前記第二、六で認定の被告乙田の個々の言動のなかには、第二、七前段の原告の言動に照らすと、世間話や冗談、飲酒の上での猥談にすぎず、許される範囲内のものもあり、すべてが違法となるものではないが、被告乙田は、原告の体に触ったり、胸に触ろうとしたり、抱きついたりしており、右行為は、原告に不快感を与え、また一般の女性であれば不愉快に感じる行為であって、原告の仕事が家政婦的仕事であり、被告乙田の自宅で被告乙田と一対一の仕事であることを考えると、被告乙田の右行為は、その労働環境を悪化させるものでもあり、セクシャルハラスメントとして違法というべきである。

二  被告乙田の原告に対する四月以降の態度は前記第二で認定のとおりである。

1  原告は被告乙田の行為につき、性的な要求を拒否したため、嫌がらせをしたと主張する。

前記認定のとおり、被告乙田は、原告に辞めてほしいと思い、原告の作った昼食を自宅で食べず、その結果原告に対し昼食について弁当持参の指示をだすことになり、また金銭の支払いを原告にさせず事務所で行い、これらはいずれもその必要のないものであり、更に、ボーナスを支給しなかったものであり、いずれも嫌がらせにすぎないと認められる。そして、被告会社代表者兼被告乙田は、当時原告に辞めてほしい(第二、一〇)と考えた理由として、原告の整理整頓の拙さや食事の不味さ等をあげ(〈証拠略〉)、原告の仕事ぶり及び性格は前記第二、九のとおりであるものの、その程度は解雇を考えるほどではないと認められること、また、前記嫌がらせは、前記性的行為の中止と時期を同じくして始まっていることを考え合わせると、前記嫌がらせと被告乙田の前記性的行為との間に因果関係がないとはいえない。

そうすると、被告乙田の右嫌がらせは、前記性的行為に対する原告の対応を一因として、原告に不利益を課しており、前記性的行為と一体として、セクシャルハラスメントと認めることができ、違法というべきである。

2  しかし、被告乙田の個々の行為のうち、被告会社が業務命令により、草むしりを命じ、原告の仕事をみるため、原告に作業日報を記載させたり、原告に電話をしたりし、また原告の車の駐車場所について注意をすることは(車庫の前に駐車するのを注意するのは自然である)必要であり、またこれらは原告に原因があるものであって、被告乙田の右行為を直ちに嫌がらせとして違法と認めることはできない。更に被告乙田の誰から給料をもらっとる等の発言(第二、一四)も、原告の発言に対抗する発言であり、これが違法というものではない。

更に、原告に対する解雇は、原告の性格及び仕事ぶりは前記第二、九、一四記載のとおりであり、また、七月以降の両者の関係は通常とはいいがたく、作業日報の記載(第二、一三)、駐車場所の注意及びそれに対する原告の行動(第二、一五)、その後の原告の言動(第二、一七)にみられる原告の指示命令違反、反抗的態度は著しく、被告乙田の前記嫌がらせに対する抗議を考慮してもなお、限度をこえており、原告の解雇はやむをえないものであると認められる。

3  被告乙田が八月七日に原告に加えた暴力について、違法性を認めることができることはいうまでもなく、これにより被告乙田は原告が被った損害を賠償すべき義務を負う。しかし、右は原告の挑発に対してなされたものであり、特に前記性的行為と因果関係のあるものとは認められない。なお、右暴行につき、原告の挑発があったからといって被告乙田の暴行の違法性や責任が阻却されるものではない。

三  被告会社の責任

被告乙田は被告会社の代表者であり、原告の仕事は代表者である被告乙田の自宅の家政婦的仕事であり、被告乙田の自宅での言動は、被告乙田個人としての言動であるとともに、家政婦的仕事をしている原告に対する被告会社代表者としての職務上の言動という面があり、原告に対する被告乙田の前記一、二で違法と判断された行動、暴行については被告会社も民法四四条一項(商法二六一条三項、七八条二項による準用)により、被告乙田と連帯して損害賠償責任を負うものである。

四  損害額

そして、慰謝料額は、右一、二1、3で判断した被告乙田の言動、その期間、ボーナスの不支給及び被告乙田の言動への原告の対応を勘案すると、八〇万円をもって、相当額と認められる。

第四  よって、原告の請求は、被告らに対し、各自八〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成四年一月一八日から支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、相当法条適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 徳永幸藏)

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